【2020×東洋大学】東京五輪でも懸念される熱中症リスクに“丈夫な血管を作る” という発想でアプローチ

東洋大学のプレスリリース

東京五輪でも懸念される熱中症リスクに
“丈夫な血管を作る” という発想でアプローチ

 本ニュースレターでは、東洋大学が2020年から未来を見据えて、社会に貢献するべく

取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。

 今回は、理工学部生体医工学科  加藤 和則 教授に、東京五輪でも重要課題の一つと

なっている熱中症に対する取り組みについて聞きました。

理工学部生体医工学科 加藤 和則 教授

理工学部生体医工学科 加藤 和則 教授

Point

1.東京五輪の熱中症リスクは、選手よりもボランティア・観客に

2.血管細胞を熱から守る新発想で、かんきつ類に含まれる成分を特定

3.熱中症予防製品の実用化で、社会課題の解決を

東京五輪の熱中症リスクは、選手よりもボランティア・観客に

東京五輪における熱中症のリスクについてお聞かせください。

 東京五輪では選手への対策に注目が集まっていますが、実は屋外で長時間活動するボランティアや観客のほうが熱中症になるリスクは高いのです。選手たちは競技会場の条件を知った上で熱中症対策も含めた準備を行いますが、ボランティアや観客の準備が十分であるのか大変心配です。特に、海外から訪れる観客は日本の高い湿度に慣れていないでしょう。また、日よけや水分補給を十分に行っていても、予想を上回る酷暑に身体が持ち堪えられない事態も考えられます。五輪のマラソン・競歩は札幌に会場変更されましたが、他にも屋外の競技は多数行われます。道路に熱反射しにくい舗装を施す、ボランティアスタッフのユニフォームを工夫するなど対策は講じられているようですが、それだけでは安心とはいえないでしょう。

 また、多くの人々が熱中症で体調を崩したときに懸念されるのは、会場となる地域の医療体制がパンクしてしまうことです。そうなると熱中症で運ばれた人たちだけでなく、一般医療への対応に影響を与えかねません。抜本的な熱中症対策を行わなければならないと、医療関係者の間でも懸念されている状況です。

血管細胞を熱から守る新発想で、かんきつ類に含まれる成分を特定

人間の「血管」が熱中症対策に関わると着目されたのはなぜでしょうか。

 きっかけは、3年ほど前に救急医療の医師と会う機会があり「血管内皮細胞は熱に弱い。人間は高熱に晒されると、血管がいちばんダメージを受けやすくなる」という話を伺ったことです。通常はインフルエンザで40℃くらいの高熱が出ても、1~2日で熱が下がりますね。しかし、その高熱が数日続いたら、どうなるのか。インフルエンザ脳症といって、血管に障がいが起こることで脳の神経細胞が死んでしまい、脳や身体に障がいが残ったりするリスクが高まります。最悪、死に至るケースもある症状です。

 私の研究チームで血管内皮細胞を40℃の条件下で培養したところ、体温に近い37℃の時と比べて翌日には明らかに細胞質が変形し、2日後には細胞がボロボロになり死んでしまうという結果になりました。さらに42℃で培養すると、わずか1~2時間で細胞が死滅してしまうこともわかりました。そこで熱中症対策を考えた時に、「高い熱に耐えられる丈夫な血管を作ることで重症の熱中症を予防できる」という仮説を立てたのです。

その仮説から、かんきつ類の成分が有効との発見に至った経緯を教えてください。

 熱から血管を保護する成分を探すにあたって、薬品や合成した有機化合物ではなく、自然界に存在する植物由来のフィトケミカルから探すことにしました。そのほうが早期の実用化を目指すことが可能となります。幸運なことに早い段階で、はっさくや夏みかんの皮に含まれるオーラプテンが有効であることが発見できたのです。

 オーラプテンを血管内皮細胞に加えて40℃で培養すると、加えない場合に比べて死んだ細胞の数が減少し、3日後の細胞の生存率は2倍以上に伸びていることが確認できたのです。さらにシークワーサーから抽出したタンゲレチンやココナッツオイルに含まれる中鎖脂肪酸も熱から細胞を保護できることを突き止め、あわせて特許登録をしました。

 熱で血管内皮細胞が破壊されると、血管の細胞間に隙間ができて血液中の水分がどんどん漏れ出し、水分補給を行っても脱水症状を起こしてしまうリスクが高まります。この成分がうまく活用できれば、熱のダメージから血管を保護しながら水分補給を行い、熱中症予防の効果がいっそう高まることが期待できるのです。

はっさく ※写真はイメージです。

はっさく ※写真はイメージです。

熱中症予防製品の実用化で、社会課題の解決を

今後どのような展開を考えているのでしょうか。

 熱中症対策は、東京五輪だけでなく、今後も続いていく重要課題です。総務省消防庁の発表によると、2019年(5~9月)の熱中症による全国の救急搬送者数は約71,000人。そのうち65歳以上が約37,000人と半数以上を占め、高齢者へのサポートが求められています。また、建設業は高温多湿の中でも重装備で作業するため重症搬送者の多い職種とされています。

 現在、一般生活者やアスリート向け、熱中症リスクの高い建設現場で働く人向けなど、オーラプテンなどを使ったさまざまな食品や飲料などの実用化プロジェクトに挑戦しています。なかでもユニークなのは、かんきつ類の産地における地域おこしプロジェクト。産官学連携でかんきつ類を使った熱中症対策に取り組み、地域の産業を活性化しながらアピールしていこうというものです。

 大学の使命の一つは、新たな研究成果を社会に役立てていくことにあるので、企業や自治体などと連携を図りながら、社会的な課題の解決に取り組んでいきたいと考えています。

加藤 和則(かとう かずのり)

東洋大学 理工学部生体医工学科 教授/薬学博士

専門分野:免疫学、バイオ創薬学

研究キーワード:がん治療薬、熱中症、機能性食品

著書・論文等:標的細胞への選択的遺伝子導入法の開発 [Drug Delivery System 22]ほか

【本News Letterのバックナンバーはこちらからご覧いただけます。】

https://www.toyo.ac.jp/s/letter2020/

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