ヨコハマ海洋市民大学2024年度講座第8回「海へ。パラセーリングで世界を目指す~海とセーリング、その尽きない魅力」を開催しました!

2025年1月9日(木)【象の鼻テラス・横浜市中区】

海と日本プロジェクト広報事務局のプレスリリース

ヨコハマ海洋市民大学実行委員会は、令和7年1月9日(木)に横浜の海が抱える社会課題の解決に挑戦する市民を養成する、ヨコハマ海洋市民大学2024年度第8回講座「海へ。パラセーリングで世界を目指す~海とセーリング、その尽きない魅力」を開催いたしました。このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。

イベント概要 

・ヨコハマ海洋市民大学実行委員会は「横浜の海が抱える社会課題を自ら考え、解決できる市民(海族・

 うみぞく)」を育成するヨコハマ海洋市民大学2024年度講座の第8回目を開催した(年10回開催)。

・開催日時:令和7年1月9日(木)19:30~

・開催場所:象の鼻テラス(横浜市中区)

・参加人数:39名(会場受講生15、オンライン受講生15、講師1、ゲスト・実行委員8名)

・共  催:海と日本プロジェクト

・後  援:横浜市・海洋都市横浜うみ協議会

講師紹介

第8回目の講座は、一昨年「セーリング世界選手権(オランダハーグで開催)」に日本代表として出場(パラ種目・男子ハンザ303級)し、世界の強豪を相手に銀メダルという素晴らしい成績を残されたセーラーの丹羽巧(にわ たくみ)さんをお迎えしました。

丹羽 巧選手のセーリング競技成績

・2024年アジア太平洋選手権 第1位
・2023年パラセーリング世界選手権 第2位

・2022パラセーリング世界選手権 第3位

 *ハンザクラス、2024年は健常者との混合レース

丹羽選手の情報は「公益財団法人日本財団パラスポーツサポートセンター」が運営する「マイパラ」のHPからご確認いただくことができます。

https://www.parasapo.tokyo/mypara/sports/sailing/

「初めまして。普段、このような形でお話をする機会があまりないのでとても緊張しています。温かい目で見守って聞いてください」と会場の笑いを誘いながら講座が始まります。世界を相手に競うアスリートとは思えない柔らかな表情と語り口に受講生の緊張もほぐれていきます。

講師がヨットを始めたのは千葉県立磯辺高校に入学してから。「磯辺高校がヨットの名門校だったので始めましたがそれまでヨットについては何も知りませんでした。」と語ります(世界で活躍されている方なので幼いころから英才教育を受けた方なのかと筆者は思っていました)。

そしてすぐにヨットの魅力に取りつかれたそうです。しかし19歳のとき事故により右足を切断、義足の生活になってしまいました。「落ち込んだ時期もありました。しかしパラセーリングと出会い、前向きに生きることができるようになりました。」と当時を振り返ります。

パラセーリングとの出会いとその後の経歴

2014年7月に事故に遭い、3か月の療養を経て義足での生活を決断されました。そこからの回復は早くこれまでと同じように外出することのできる生活を取り戻しました。

翌年2015年1月に知人からパラセーリングのことを聞き、すぐに体験会に参加します(事故後1年も経っていないのに素晴らしい行動力です)。その体験会で同年2015年12月にリオデジャネイロで開催されるパラリンピックの予選があると聞き、トレーニングを開始しました。愛知県蒲郡や琵琶湖への遠征など国内での経験と実績を積み重ね、準備万端で迎えた12月の予選(世界選手権)だったのですが…結果は大敗…。「高校時代からそれなりに成績を残してきましたし、自信満々だったのでかなり落ち込みました。」と講師は語ります。さらに「世界の壁は相当分厚いな!と感じましたし同時に高い目標ができ、ますますパラセーリングにのめり込んで行きました。」とお話は続きます。

その後、毎年世界選手権に出場し徐々に順位が上がり、2022年広島開催の世界選手権で3位、2023年オランダ開催の世界選手権で2位となり、昨年2024年はインクルーシブ大会のアジア太平洋世界選手権で優勝されました。

これまで日本人選手は特に世界から注目もされず、下位を走るチームのひとつという認識だったようですが、2022年あたりからは注目度合いが変わってきたのを肌で感じ講師はとてもうれしかったと語ります。

ヨットレースについて

講師はヨット競技を知らない受講生のためにヨットレースの概略も説明してくれました。スタート時は一斉にスタートラインに並びますが海上なので線が引いてあるわけではありません。また波や風を常に受けているのでヨットが動きます。ブレーキはないのでスタート時間に合わせ極力スタートラインに近くいなければ出遅れますし、出すぎればフライングになってしまいます。このようにヨット競技のスタートはとても難しいそうです。スタートすると会場に浮んだマーク(浮き)を決まった順序で回りフィニッシュラインを目指します。写真左のコース図はソーセージコースと言うそうです。

勝敗のポイント

ゴールの速さを競うという点ではシンプルに見えますが、講師のお話を聞くところセーリング競技は実に複雑なスポーツだと感じました。それは風速・風向・潮流・波など常に自然環境が変化し続けるなかで「いかにその次を予測しライバルを出し抜くか」が勝利のポイントだからです。頭と身体の両方をフルに使わないといけないのがセーリング競技の魅力のようで、講師は始めてすぐ、虜になってしまったそうです。

また風を受けて風下に向けて進むのが一般的なヨットのイメージですが、実は風上に向けて進むことができます。風を受けて風下に進むだけではなく、前から45度くらいの角度で風を受け、風上に進みます。その説明が上の写真右側です。風上にジグザクに進むんですね!ただいつも同じ方向から風が吹いてくるわけではないので常に風を探し続ける必要がありそうです。また同じ海の上でも風の向きや強さが変わることもあり、他の船と真逆の方向に舵を切ったところレースに有利な風が吹いて来て優勝してしまうなど、予測のできない部分もあり、自分の判断と自然環境(風や波など)への瞬間的な対応を常に探り続けることがこの競技の奥深さとなっているようでした。

通常ヨットレースでは10レース程行い総合順位をつけるそうです。1位は1点、2位は2点…と言うことで合計点の少ない選手、チームが優勝です。なので1レースで優勝したから総合優勝になるわけではありません。安定した上位入賞が大切なようです。レース中に船が接触しないためのルールも決まっているようです。進行方向右にいる船が優先されるスターボード艇(権利艇)やポート艇(非権利艇)のお話や風上艇・風下艇の優先順位のお話がありました。これらのルールと自然環境の変化に対する対応などの戦略が勝利のカギとなるようです。

パラセーリングの魅力

講師が挑戦しているハンザクラスは一人乗りのヨットで、どんな障がいを持っている方も同じレースに参加することができます。ほかにも二人乗りクラスなどもあるそうです(障がいの度合いでポイントが決まっており、決められたポイント以内でペアを組むとのこと)。他の競技のように細かくクラス分けされていないのもパラセーリングの魅力だと講師は考えているようでした。レース後、様々な種類や度合いの障がいをもつ選手がお互いに「Good Race!」と称えあうのもパラセーリングの魅力の一つだと講師は語ります。

講師は日常生活で「健常者よりも健常者のようにふるまうこと」を意識しているそうです。それは初めての世界大会で講師より重度の障害を持つ海外の選手がサポーターと対等に堂々と会話や交渉をしているのをみて素敵だと感じたからだそうです。また海上は陸上よりもバリアフリーで、パラセーリングはすべての競技者が平等に参加できる魅力的な競技だと講師は感じているようでした。

2023年世界選手権を振り返って

2023年8月10日~20日、オランダのハーグで4年ぶりに開催された本大会はオリンピックへの出場国枠を決める大会で、この回に初めてオリンピック種目とパラリンピック種目が同時開催されたそうです。講師の挑戦するハンザクラス(303級)は15か国の出場とのことでした。

この年は3月から日本チームとして様々なサポートを受け練習に励んでいました。また記録や取材などたくさんの期待も感じ「絶対にメダルを取らなければ」とひそかにプレッシャーを講師は感じていたそうです。また現地でも「オランダ日本人ヨットクラブ」の方々の手厚いサポートを受け、あらためて世界選手権でのチーム力の重要性を感じたとのことでした。

2017年パラ種目にハンザが追加されてからずっとポーランドのピーター選手がトップを走ってきたそうです。2018年に講師が参加してからも6位、7位と表彰台に登れずライバルと認識させることができたのは2022年の広島大会からだと講師は語ります。そしてライバルとして2023年は絶対勝つ!と臨んだそうです。前半終了後は互角、優勝争いはポーランドか日本だと言われていたそうです。残念なことに後半はポーランドが好調でした。講師は優勝は逃したものの自己最高、日本過去最高の銀メダルを獲得します。

インクルーシブ・セーリング

講師が挑戦するハンザ級(クラス)はインクルーシブ・セーリングのために開発されました。その目的は障がいの有無・年齢・性別などの区別なくセーリングを通じ交流をすること、障がいの程度でクラス分けをせず、障がい者と健常者が同レースで競い合うこと、競技者・指導者・運営は適性や希望に応じて担当すること、これらを通じてあらゆる多様性を巻き込んだ活動を目指しているそうです。セーリングの勝敗を分けるのは「風を見極める」「潮を見極める」「波を見極める」「他艇との位置関係を見極める」「他艇の戦略を見抜く」と言った身体能力以外の要素で、身体条件が勝敗の決定要因ではないとのことでした。そのためハンザは身体能力差が極めて縮まるような設計がされており障がいの度合いに合わせ補助パーツを装着することができます。首から下が動かない選手でも呼吸運動だけで操船可能なパーツもあるそうです。2018年東京大会では盲導犬と参加した全盲女性・癌で闘病の末、片足を切断した男性・知的障がいの男性・怪我によりひざ下の切断した男性・健常者の男性が表彰台に上りました。下の写真(右)は性別、年齢、障がいの有無に関係なく勝負ができている象徴的な写真だと講師は語ります。

講師は公益財団法人 日本セーリング連盟(JSAF)に所属しインクルーシブへの理解を世界と同レベルに引き上げたいとのことです。そのために企業や地域を巻き込んだインクルーシブ・セーリングの活動を通し、雇用のあり方も障がいや年齢、性別などにとらわれない誰もが働きやすい社会になってほしいと訴えていました。インクルーシブ・セーリングを通じて普段かかわりの少ない障がい者と健常者との交流することでお互いを認め合う大切な機会となり、双方の視野が広がることを期待しています。またこの活動に参加された企業の仕事にもさまざまな良い気づきとなるのではないかと講師は語っていました。最近は社員研修としてインクルーシブ体験を実施する企業も出てきたようです。このインクルーシブを浸透させることで日本セーリング界も次のステップへと進めるのではと、講師は大きな期待を持っているとのことでした。

講座終了後はメダルを囲み、歓談となりました。

参加者の声

・パラセーリングを具体的に知らなかったのでとても興味深かった

・身体的につらい状況だと思うのに海へ向かうエネルギーに感動した

・多様性、インクルーシブへの理解がすすんだ

<団体概要>

団体名称:ヨコハマ海洋市民大学実行委員会

URL:https://yokohamakaiyouniv.wixsite.com/kaiyo/

活動内容 :横浜市民が横浜の海が抱える社会課題を自ら考え解決に向けて行動できる海族(うみぞく)になるための養成講座を年10回(コロナ禍以前は年20回)開催している。座学だけではなく実際に海や海を学べる野外講座も開催している。

日本財団「海と日本プロジェクト」

さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。

https://uminohi.jp/

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