地域における障害者のスポーツ参加の受け皿を広げるには?障害者スポーツセンターをハブとした「施設ネットワーク化」を

公益財団法人 笹川スポーツ財団のプレスリリース

「スポーツ・フォー・エブリワン」を推進する笹川スポーツ財団(所在地:東京都港区 理事長:渡邉一利 以下:SSF)は、障害者が身近な地域で運動・スポーツに親しめる環境を整備するための効果的な施策や取り組みを検討するために、公益社団法人 東京都障害者スポーツ協会(所在地:東京都新宿区 会長:延與 桂)と共同研究を実施いたしました。

本研究では、東京都障害者総合スポーツセンター(総合SC)と東京都多摩障害者スポーツセンター(多摩SC)、その周辺自治体の施設(公共スポーツ施設等)を対象とし、地域の障害者スポーツの拠点となる障害者スポーツセンター、および障害者優先スポーツ施設や一般の公共スポーツ施設等の機能・役割を明らかにしました。そして、障害者スポーツの専門性の高い施設とその他の施設とのネットワーク化に向けた提言を行いました。

東京2020大会のレガシー「共生社会の実現」に向けて、障害者のためのスポーツ施設のネットワーク化を促進していくことが重要です。

▼公式ウェブサイト
https://www.ssf.or.jp/thinktank/disabled/2023_01.html

  • 主な調査結果

調査結果① 東京都をモデルケースとした施設の潜在的ニーズの把握

 主催事業(運動スポーツ教室、スポーツ大会・イベント、巡回運動・スポーツ教室)の実施状況

調査結果② 障害者専用スポーツ施設のあり方を5項目に定義

 「障害の種類・程度、利用の目的などに応じてスポーツができる設備・用具がある」等

 

調査結果③ 障害者専用スポーツ施設における専門職が備えるべき能力を3つに整理

 ① 支援力・指導力 ②想像力・創造力 ③発信力・調整力・情報収集力

  • 提言:地域の障害者スポーツセンター(ハブ施設)を中心とした施設ネットワーク化

▼施設の役割別に求められる障害者のスポーツ推進事業

▼障害者の受入れノウハウの蓄積

▼障害者のニーズに応じた利用スポーツ施設のトランジション(移行)を可能に 等

  • 研究担当者コメント

本研究は、「障害者専用・優先スポーツ施設に関する研究2021」において政策提言した障害者専用・優先スポーツ施設をはじめとした地域の施設ネットワーク化の実現に向けて、東京都内の施設を対象に実践研究を実施した。都内2カ所(東京都障害者総合スポーツセンター、東京都多摩障害者スポーツセンター)の障害者スポーツセンターを指定管理する東京都障害者スポーツ協会との共同研究が実現したことにより、障害者専用スポーツ施設のあり方、そこで活動する専門職のあり方について定義することが可能となった。

さらに、障害者が身近な地域でスポーツに親しめる社会の実現のために、障害者スポーツの拠点(ハブ)となる障害者スポーツセンターの役割と備えるべき機能、サテライト施設や地域のその他社会資源の役割と備えるべき機能について明らかにし、施設ネットワークのメリット、利用するスポーツ施設のトランジッション(移行)について整理した。

【笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター 小淵 和也】

  • <本研究の対象施設について>

総合SCと多摩SCをそれぞれハブ施設と定義し、その周辺の10自治体をサテライト施設地域のその他社会資源の対象自治体として施設を抽出。

 

▼ハブ施設:2施設(総合SC、多摩SC)

▼サテライト施設:145施設

総合SC、多摩SCの各施設において、利用者が多い基礎自治体の上位10自治体内の公共スポーツ施設

・総合SCの該当自治体(北区、板橋区、足立区、練馬区、豊島区、荒川区、文京区、江東区、江戸川区、新宿区)内の公共スポーツ施設:107施設

・多摩SCの該当自治体(国立市、府中市、国分寺市、立川市、八王子市、日野市、小金井市、小平市、武蔵野市、調布市)内の公共スポーツ施設:38施設

▼地域のその他社会資源:437施設

前述の該当自治体内の多機能型施設(212件)、入所支援・自立訓練(生活・機能)(105件)、障害者福祉センター(23件)、公民館等(97件)

 ・総合SCの該当自治体内の地域のその他社会資源:220施設

  ・多摩SCの該当自治体内の地域のその他社会資源:217施設

  • 主な調査結果 詳細

調査結果① 東京都内のサテライト施設、地域のその他社会資源の潜在的ニーズ

主催事業の実施状況

・運動スポーツ教室:サテライト施設は74.6%、地域のその他社会資源は19.8%

・スポーツ大会・イベント:サテライト施設は52.1%、地域のその他社会資源は12.3%

・巡回運動・スポーツ教室を実施しているサテライト施設は2.8%、地域のその他社会資源は3.8%

サテライト施設では約8割がいずれかの主催事業を実施していたのに対して、地域のその他社会資源では約6割がいずれの事業も実施していなかった。

図表1, 主催事業の実施状況

資料:笹川スポーツ財団「東京都における障害者スポーツ施設運営に関する研究」(2022)

調査結果② 障害者専用スポーツ施設のあり方を5項目に定義

東京都障害者スポーツ協会、総合SC、多摩SCの役職員との議論を経て、障害者専用スポーツ施設のあり方を5項目に定義した。

 

1, 障害の種類・程度、利用の目的などに応じてスポーツができる設備・用具がある:安心・安全をハード面で保障

①「使いやすさ」「分かりやすさ」に配慮した設備、見えやすさを考えた壁・床・点字ブロックなどの色合いの工夫。

②障害者スポーツ特有の用具を一定以上に備えており、利用者の障害特性やニーズに合った用具を提供する。

 

2, 障害の種類・程度、目的などに応じて日常的にスポーツ支援・指導ができる専門職がいる。

①安心、安全なスポーツ活動を提供できる専門職が常駐している。

②スポーツの楽しみ方を提案でき、利用者のレベルや志向に合わせた技術指導などのスポーツ支援・指導ができる。

③利用者が運動・スポーツを楽しむために必要な練習相手を務めることができる。

 

3, 多様な活動機会を通じて、ささえる人材の育成・養成・実践の場を提供する

①体験会や交流事業を通して、スポーツ活動をささえる人材(理解者)を育成する。

②講習会や研修会を通して、スポーツ活動をささえる人材(指導者)を養成する。

③施設が主催する事業の運営補助の場を提供し、ささえる人材としての指導者の立ち振舞いや障害特性などに応じた指導技術の習得を支援する。

 

4, 障害の種類・程度・目的などに応じたインテーク・個別相談、スポーツ教室、大会など多様なプログラムを実施する

①丁寧なインテークと必要に応じた個別支援を通じて不安を解消し、利用者のやりたい思いを見つける。

②スポーツ種目、競技レベル、障害の種類・程度、年齢などに応じた多種多様な事業を開催する。

③障害の有無、障害の種類や程度が異なる人など、あらゆる人に、スポーツを通じた相互理解の場を創出する。

④日頃の練習成果を発揮できる場を提供する。

 

5, 関係機関・団体と連携・協働し、地域におけるネットワーク構築の主体的な役割を担い、スポーツ環境を整備する

①地域のスポーツ機関、教育機関、障害福祉団体などからの依頼に対し、事業成功に向けた助言やアウトリーチ、支援を提供する。

②障害のある人のスポーツ活動における専門的な相談窓口としての役割を担う。

③各地域の関係機関・団体との連携・協働の強化に向けて主体的役割を担う。

調査結果③ 障害者専用スポーツ施設における専門職が備えるべき能力を3つに整理

東京都障害者スポーツ協会、総合SC、多摩SCの役職員との議論を経て、障害者専用スポーツ施設における専門職のあり方として、専門職が備えるべき能力を3つにまとめた。

 

1, 支援力・指導力

①活動場面の危険を予測し、安心してスポーツができるように安全を最優先した助言ができる。

②個々の障害特性や目的に応じて、きめ細かなスポーツ支援・指導ができる。

2, 創造力・創造力

障害者専用スポーツ施設内の活動のみならず、いかなるスポーツ場面においても、既存の用具の使い方やルールの緩和、指導方法などを障害特性に合わせて工夫することで、利用者にとって最適なスポーツ環境を整えることができる

3, 発信力・調整力・情報収集力

①専門知識や過去の指導経験に加え、全国のスポーツ・障害者スポーツ関係機関・団体との連携・協働から得た先進性・新規性の高い情報を発信し、各地域のスポーツ振興に還元することができる。

②地域のスポーツ推進のために多様な関係機関・団体を繋ぎ、助言ができる。

  • 提言:地域の障害者スポーツセンター(ハブ施設)を中心とした施設ネットワーク化

SSFでは、2010年以来、障害者が身近な地域でスポーツに親しめる社会の実現のためには、障害者スポーツの専門性の高い施設とその他の施設とのネットワーク化・連携を促進する必要があると提言してきた。ここでは、スポーツ施設を以下の3つに分類した。

1, ハブ施設:

都道府県単位で障害者スポーツの拠点(ハブ)として機能する障害者スポーツセンター

①    障害者のスポーツの場のコーディネートや質の高い指導ができる人材がいる障害者専用・優先スポーツ施設→日本パラスポーツ協会「障がい者スポーツセンター協議会」加盟施設(24施設)

2, サテライト施設:

都道府県・市町村単位で障害者の日常的なスポーツ活動の場となる施設

②    ①を除く障害者専用・優先スポーツ施設

③    ①と②を公共スポーツ施設

3, 地域のその他社会資源:

ハブ・サテライト施設以外で、障害者のスポーツの場となる施設

④    公民館、福祉施設、特別支援学校・一般校

図表2, ハブ施設・サテライト施設・地域のその他社会資源とのネットワーク化のイメージ

資料:笹川スポーツ財団「東京都における障害者スポーツ施設運営に関する研究」(2022)

【施設の役割別に求められる障害者のスポーツ推進事業】

本研究では、東京都を事例に、障害者のスポーツ環境整備の拠点となるハブ施設に求められる役割・機能と、施設で働く専門職が備えるべき能力を整理した。そして、サテライト施設や地域のその他社会資源へのアンケート調査を通じて、「障害者のためのスポーツ施設ネットワーク」の実現に向けた実態の把握を試みた。今回の知見を踏まえて、障害者のスポーツ活動推進に関わる5つの主な事業・機能について、それぞれの施設に期待される取り組みの具体例を以下に示す。

図表3, 施設の役割別に求められる障害者のスポーツ推進事業:東京都の事例より

資料:笹川スポーツ財団「東京都における障害者スポーツ施設運営に関する研究」(2022)

【施設ネットワークに期待される効果】

ハブ施設、サテライト施設、および地域のその他社会資源が地域単位でネットワーク化すれば、それぞれの施設における障害者のスポーツ参加の受け皿が広がる。特にスポーツ参加に消極的な障害者に対しては、自宅や職場の近くにある身近なスポーツ環境が有効であり、地域の公共スポーツ施設や学校開放施設、福祉施設など、サテライト施設や地域のその他社会資源への期待が大きい。

1, ネットワークのメリット

施設ネットワークの最大のメリットは、ハブ施設のノウハウがサテライト施設や地域のその他社会資源に活かされることである。サテライト施設や地域のその他社会資源でスポーツをする障害者が増えれば、それが口コミなどで広まり、新たな障害者のスポーツ参加希望の問合せも増えてくるだろう。

2, 場の拡充と多様化の実現

施設ネットワークは、障害者のスポーツとの出会いの場の拡充と、障害者のスポーツ活動の多様化の実現につながる。ハブ施設、サテライト施設、地域のその他社会資源が地域単位で連携し、提供する事業・サービスのすみ分けを行うことで、障害の種類や程度、活動の目的などが異なる障害者の多様なニーズへの対応が可能となる。

3, トランジションの可能性

また、施設ネットワークは、年代やライフステージにより変わりゆく障害者のニーズや健康状態の変化に対応し、利用するスポーツ施設のトランジション(移行)を可能にする。これにより、「地域移行」「加齢等による障害の重度化」「専門性・競技性の向上」の3つの面から、障害者のスポーツ活動の幅を広げることができる。

①地域移行

施設、指導者、そして共に活動する仲間が充実したハブ施設でスポーツを始めた障害者が、体力・技術を身につけ、自宅や職場により近いサテライト施設や地域のその他社会資源に活動の場を移したり、ハブ施設での活動と併用したりする。サテライト施設や地域のその他社会資源では、障害のない人に交じり活動する機会も広がる。

②加齢等による障害の重度化

サテライト施設や地域のその他社会資源で活動していた障害者が、加齢や疾病により障害が重度化(重複化の場合もあり)し、スポーツをするのが難しくなった際、ハブ施設に移ることで、充実した施設と専門性の高い指導者のもとで、スポーツをやめずに続けることができる。

③専門性・競技性の向上

サテライト施設や地域のその他社会資源でスポーツを始めた障害者が、より高い競技レベルを志向したり、より専門性の高い競技・種目に移行(転向)したりする際に、サテライト施設からハブ施設へ、地域のその他社会資源からハブ施設やサテライト施設へ活動の場を移行することができる。

図表4, 施設ネットワークによる障害者のスポーツ活動の多様化

資料:笹川スポーツ財団「東京都における障害者スポーツ施設運営に関する研究」(2022)

  • 調査概要

・調査項目

施設の設置および管理状況/施設の付帯施設の設置状況/施設の利用者の状況/施設の指導者/

施設の実施事業/施設の実施種目/利用にあたっての工夫・配慮/総合SC、多摩SCの認知度 等

・調査期間:2022年11月~12月

・調査方法:郵送法

※対象施設が希望した場合は、調査票データをメールで送付し、回答済み調査票をメール添付で返送

・実施体制:東京都障害者スポーツ協会と笹川スポーツ財団が共同で実施

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