『環境保全活動に取り組む、釣り業界団体のトップ』・『気候変動の権威』・『環境政策の第一人者』が一堂に会し、世界環境デーに合せ、『 地球・ひとのために私たちが出来ること 』とのテーマで対談を行った。

一般社団法人 日本釣用品工業会のプレスリリース

2022年5月31日  於 東京大学第二本部棟
つり環境ビジョンコンセプトに基づくLOVE BLUE事業との社会貢献事業・環境保全活動の取り組みを続けて十年を迎えた、
一般社団法人日本釣用品工業会 島野容三 会長、気候変動研究の権威である東京大学 住明正 名誉教授、国連気候変動枠組条約や京都議定書の交渉にも参画した環境政策の第一人者の京都大学 松下和夫 名誉教授は、この対談の中で、地球温暖化が進むこと。国内や世界各地では集中豪雨など異常気象の頻度が増え、今後は世界の穀倉地帯の干ばつが危惧される。そして環境問題に一発逆転の秘策はない。地道な努力がやはり大事。その為に私たちができることについて、それぞれの視点から対談を行った。

(対談者)

一般社団法人日本釣用品工業会 島野容三 会長・株式会社シマノ代表取締役会長(右)

東京大学 住 明正 名誉教授:東京大学未来ビジョン研究センター特任教授、国立環境研究所 前理事長(中)

京都大学 松下和夫 名誉教授・公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェロー(左)

【 主な 対談内容 】

島野:本日は、住名誉教授、松下名誉教授に貴重な対談の機会を頂きましたこと心より御礼申し上げます。

私は、一般社団法人日本釣用品工業会の会長として今年で十九年目となります。 ご存知の通り、弊会は、日本全国の釣りメーカーによる全国団体で、大きな活動は二つありまして、ひとつは消費者の為のフィッシングショー。 ここ二年はコロナ禍の影響でオンライン開催をしておりますが、例年、パシフィコ横浜で約五万人の方がお集まりいただくショーを主催しています。 もうひとつが、LOVE BLUE事業(詳細後掲)と言いまして、私たちは釣りを通じて、海や川などの豊かな自然環境から恩恵を受ける中で、釣りに関わる人々とともに世の中に役立つことをさせて頂こうと、水辺の環境保全活動などを社会貢献事業として取り組んでいます。 どうぞ宜しくお願いします。

(一社)日本釣用品工業会 島野容三会長(一社)日本釣用品工業会 島野容三会長

 

(中略)

【 人間活動が温暖化に寄与していることをちゃんというだけで二十年以上かかっている 】

住:まず、人間活動の温暖化への寄与という点ですが、2021年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第一作業部会(WGⅠ)第六次評価報告書(AR6)政策決定者向け要約(SPM)に記載がありますが、「人間活動が温暖化に寄与していることが疑う余地がない」と明記されるまでに二十年以上かかっていることが示されています。 この背景は、温暖化問題が我々の社会のエネルギーシステムに直結していることから、既存のエネルギーシステムを変えることにつながるからです。 例えば化石燃料を止めて太陽電池に変えるとすると、途端に自分の商売どうなるのかとなるわけです。 とはいえ、最近の地球が暖まってきている。 それは自然変動だけではこうならない。 やはり、人間活動の効果が大きいというのが今の結論なのです。

【 将来的には世界的な穀倉地帯の干ばつが大きなダメージになり得る 】

住:その次に、温暖化すると、異常気象の頻度が増えます。 事実毎年、日本で集中豪雨が起きているので、日本ではコンセンサスがあります。 アジアでも豪雨や山崩れに関心がありますが、世界的見れば干ばつが大きな問題です。 将来的には穀倉地帯の干ばつによるダメージが大きいのではと言われています。 また、山火事も難しい問題です。 海外では基本的に消さないという方針を持つ国もあります。 自然のサイクルであり、森林の再生につながるという理由からですが、ただ昔と違って、民家が森林の近くに建つようになったことでほっておくと延焼被害が起きることになります。 また熱帯雨林での人為的な焼き畑もあり、生態系の破壊につながっています。 これらのように、人間社会が変わることによって新たな災害が増えるということが起きてきます。

【 温暖化は進む。 削減努力をしつつ、対応策を考えるべき 】

住:そこで大きく問われているのは、今後の対応です。 温暖化は進むだろうと。 いくら削減努力をしても、今程度のことは起きるだろうと。 そうするとやはり、対応策を考えた方が良いのではないかということなのです。 私もそう考えています。

東京大学 住 明正 名誉教授東京大学 住 明正 名誉教授

                  (中略) 
【 温暖化はCO2排出者とその被害者の非対称性、世代間の対立に 】

松下:温暖化について、ひとつ補足すれば、温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を多く排出している人と、そこから被害を受けている人が非対称という問題があります。CO2を多く排出している人(や国)は相変わらず豊かな生活を続け、一方で殆ど排出していない人(や国)が干ばつや豪雨などの深刻な被害を受けているということがあります。さらに、CO2を排出しているのは、現在の世代ですが、深刻な影響を受けるのは、現在の若者、そして将来生まれてくる子どもたちなのです。その意味で世代間の対立、世代間の公平性の問題があると思います。今、スウェーデンに始まり、やヨーロッパ、アメリカを中心として気候正義を求めて、若い人たちが立ち上がっています。彼らにしてみれば、大人になる頃には地球が大変なことになるのではとの強い危機意識を持っています。それに対して今を生きる私たちは責任があると思います。 

京都大学 松下和夫 名誉教授京都大学 松下和夫 名誉教授

 

                ( 中略 )

【 今の日本の風土に合わせた、地方分散型の地域開発を 】

住:私から温暖化と自然災害という点で、その対応策を具体的に挙げるとすれば、例えば河川の氾濫などが起こり得る場合に、もちろん様々な歴史的な事情や背景があることと思いますが、やはり危ないところには住まないようにする施策や立地も大事なのではというのがひとつ。昔は河川の流域に氾濫原が沢山ありましたが、堤防などにより河道を固定し、氾濫原を宅地や農地などに利用してきました。しかし、堤防だけで守るということではなく、遊水池などへ水を流せるような設計にし、普段はその遊水池を公園や緑地として活用するような流域延滞で治水したほうが良いのではないかという方向に変わりつつあります。私もそう思います。そして、今の日本の風土の中で、どうやって上手く暮らして行けるかという地域開発をしてゆくのが必須だと思います。なんでも東京に集めてと言うのは無理があるだろうと。だから地方分散型で対応策を行うというのが今の考え方だと思います。

 【『 人生をエンジョイできるライフスタイル 』その意味で釣りは良い。人として人生を楽しむのに大切】

住:昭和の時代は、ある意味イケイケでしたので、どうしても生産側の視点が非常に大きくて、それが消費に向かった時にはバブルとなった。逆に、今問われているのは、『 安定した消費 』というか、『 人生をエンジョイできるライフスタイルの設定 』と思います。どうも昔の名残で、お金を使えば幸せなんだというマインドが日本にはありました。大きな言葉で言えば、「文化」と言いますが、もう少しゆとりある生活が重要かなと思っています。やっと日本も少し変わって来ましたが、ヨーロッパでは街角に広場があって、オープンテラスとかありますよね。東京は人口が多くて交通の邪魔とか言われますが、日本は暑くなるわけですから、やった方が良い。日本でできるようになったのは、コロナ禍で、オープンエアーの方が良いということからですね。それも都市計画と絡めて行った方が良い。そういう意味で、今求められているのが新しいライフスタイル、生き方ですが、でもまだはっきりと見出されていない気がします。そう言った点では、新しいライフスタイルを作っていくというのが一番。その点で、釣りは非常にある意味、自然に親しんで良いことだと思いますね。今は、園芸とか農業とか、一次産業も見直されています。それから二次産業のように物理的な物を作り上げて行くことが大事な気がします。それは、人として、生きていく意味として、人生を楽しむのに大切な要素かも知れないと思います。

 【 釣りは人間に環境の大切さを教えてくれる。また親子の対話、命の大切さを子どもに伝える情操教育の場 】

島野:確かにライフスタイル、世の中の消費形態はどんどん変わっていますね。単に物質的な喜びだけではなく、心の豊かさを得られたり、体の健康の増進であったりということだと思います。かつそれで省エネや、作る過程もかなり明快に省エネを要求されています。そういうことにコンシューマー自身が目覚めてきているということは、大いに世界中で見て取れます。そういった意味で、もちろん釣りは、確かにコロナ対策で三密を避けるということもありますが、それ以上に、『 釣りは人間に環境の大切さというものを教えてくれる本当に良い機会 』です。それは子どもから大人まで含めて非常に良い機会を与えてくれるスポーツであり、かつまた環境以外にも、親子の対話であるとか、それから命の大切さであるとか、そういったものを子どもたちに教えて行くことできる、絶好の情操教育の場といいますか、そういった意味で、釣りはこれからも大いに活用していただけるものと思っています。その意味で、私たちも単に釣り道具を作るということだけではなく、もちろん釣りは釣り道具がなければ成り立ちませんけれども、それだけではなく、今申し上げたような多くの価値があるということをもっともっと、世の中にアピールして行くことを自分たちも努力して、みなさま方にご理解をいただくということも大切なことだと思っています。 (中略)

 【 環境問題は一発大逆転の秘訣はない。地道な努力がはやり大事。昔からの知恵、腹八分の生き方 】

住:環境問題は、一発大逆転の秘訣がある訳ではないのです、残念なことに。その意味で、地道なコツコツした努力はやっぱり大事で、ほんとに昔からの知恵だと思いますが、『 腹八分の生き方 』が大事だと思います。でも、すごく難しいのは、なかなか合意が取れないことです。「環境が限られていて、環境要因は変えられないから、人間は控えめに生きていくべき」という意見は強いですが、「それだけでは面白くない、とことんやるのが人間らしい」という意見もあります。「とことんまでやる」という人の意見は、自分がとことんまでやって、他の人に与える影響は気にしない、という場合が多いですが。このような異なる意見の合意をどう実現するか、というのがひとつの大きなテーマだと思います。

 松下:アメリカ的なバイタリティー、例えばイーロン・マスクとか、GoogleとかAppleなどのように新しい事業をどんどんやっていくようなフロンティア精神、ベンチャー精神も必要です。一方で、ヨーロッパとか日本のような古い伝統社会があって、自然や社会の制約の中で慎ましく生きるという心がけも必要です。日本はもともと狭い処に大勢住んでいる訳ですから、お互いに配慮し自然に遠慮しながら生きてゆくと。一方で今後の将来社会を見通して、新しいベンチャーとか技術革新などを若い人にはどんどんやってもらうことも必要ですね。

【 LOVE BLUE事業の理念 】

島野:私どもがLOVE BLUE事業を始めたのも、そもそも根底には、持続できる社会、持続できる環境へ取り組んで行こうということからです。いま住先生や松下先生からのお話にもありました、この自然環境をどうやって守って行くのか。そして、多くの価値のあるこの釣りというものを世界中の皆様に未来永劫、楽しんでいただきたいと、そのためにも、「自分たちの身の丈に合った、色々な環境改善をして行こう」というのがこの事業の発端なのです。それには、自分たちで財源を持たなければならないと考えました。自主財源ということです。政府に頼んで税金を出してくれということではなく、自分たちで集めた資金の範囲で、やれる範囲で、まずは始めて行こうということで、初めて参りまして、お陰さまで、参加企業は260社を超え、去年では三億を越える資金が集まっております。その貴重な浄財を基に、全国規模での水辺の環境保全活動として、専門のダイバーによる全国からのご要望を受けた水中クリーンアップ活動や、魚族資源の保護増殖という趣旨での、全国の公的栽培機関と連携した放流事業など、持続可能な社会の為に、公益財団法人日本釣振興会とも協働事業という形で、私どもといたしましても、多少なりとも社会の為に貢献したいということで進めています。『 これは、決して、何も業界の繁栄のためにではなく、やはり、これから釣りをして行く人たちの為に、未来へどれだけの遺産を遺して行けるのかという取り組みであり、あるいは、我々も釣り業界として恩恵を受けている地球にどれだけの貢献ができるのか 』ということが大切な事業なのです。
                                          (中略)

【災害対策は利益の出る仕事ではない。それでも先延ばしにならないよう世の中のマインドを変える必要がある】

住:結局、我々のところは科学的知見、知識を与えているだけなんです。人間に対しては、行動に移していただくのは知識だけでは駄目なんです。肚に落ちるということが非常に大変なことで、それは地道に努めて行くしかないと思います。災害は昔から同じことで、目先の利益がギリギリになった時の人間の判断があるので、そういう目先の判断が問われる状態にしないうちに、打てるような対策を考えて行くのが、我々行政の仕事だと思います。実際、修羅場になったら判断もつかなくなるということもあり得ます。そのための訓練は大事だと思います。東日本大震災も大切な教訓だと思っています。ただ災害対策は、儲かる仕事ではないのです。支出ばかりでマイナスなのです。それでも先延ばしとならないように、世の中のマインドを変えていく必要があって、そこは、大分変ってきているとも思います。やはり、誤魔化すと高くつく。ちゃんとする方が一番安上がりなのだということは、色々な意味で徐々に徐々に広まってきていると思いますが、そういうことは、説得して広めて行くしかないと思っています。

 島野:私たちが社会貢献として取り組んでいる環境保全事業のLOVE BLUE事業も収益が上がるというものではありません。『 そもそもこういう事業は求めるものではないと思っています。 』いかに自分たちが貢献できたかということに満足感を得ると言いますか、あるいはやりがいを感じるというのか、そういうところに持っていく。そういう事業・理念なのだということをご理解いただく。社会貢献事業に資金を出しても全然売り上げにつながらないではないかという方も中にはいらっしゃる。そういう方々をひとりひとり説得していって、ご理解いただくということが、私の仕事でもあり、非常に大事なことだと思っています。

 住:その意味では、『 そろばん勘定するお金の中に、自然環境の価値とかそういうものを考慮するべき 』と思います。狭い視点だと、自分だけが儲かれば良いという滅茶苦茶狭いそろばん勘定ですね。もうひとつ悪いのは、ツケは他人に回して利益だけを取れば良いという考え方も酷い。やはり、皆が良くなるように考えるということが大事だと思います. (中略)

【 目先の利益に囚われることなく、ロングレンジで物事を観る 】

島野:やはり、今、住先生が仰ったことで思いますのは、目先の利益に囚われることなく、自分たちが何をしていかなければならないのかということですね。それは、一企業であっても、ひとつの業界団体であっても、これは変らないと思います。ですから、『 いかにロングレンジで物事を観ながら、自分たちがどのように社会に貢献して行けるのか。企業もお金は大事ですけれども、社会に属していますから、その中で、どう貢献できるのか。あるいはお客様が世界中となれば、世界的にどのような貢献ができるのかと考えます。ひとと社会への貢献ということですね。 』例えば、お客様がそれでご健康になられる、あるいは、精神的に安らいでいただくことができるということもひとつの貢献の姿だと思います。私も一会社の経営者としてもずっと考え行動してきたつもりです。

 島野:研究開発という観点でも、やはりロングレンジ、五年、十年というレンジで研究開発も進めて行かなければならないと思います。一企業という観点でも、私は日本人の精緻なモノ作り、日本人の英知を結集した緻密なモノ作りを世界に問うて行く。これが私の会社の真骨頂でありコアコンピタンスであると。開発もすべて国内。海外には一切出していないのです。それをこの二十年間言い続けていまして、おかげでなんとかやっています。

住:それは世界的に見てもちゃんとしたメーカーはそうやっていますよね。

松下:『 やはり、ひとを大事にすることが重要 』ですね。最近の日本は国際的に比較しても分かりますが、教育に対する投資が非常に少ない。人に対する投資をしっかりと行い、尚且つ、既得権益を擁護するばかりでなく、将来世代の若い人たちが希望を持てたり、あるいは意見を自由に表現出来たり、コミュニケーションができるようにする。そうすれば新しい産業も次々とおこります。意思疎通が図られて透明性がある社会を作っていけば、若い世代が伸び、ベンチャーなども活発になってくる、そういうことが大事だと思います。

 【 地球・ひとの未来のために、私たちができること 】

住:地球・ひとの未来のために、私たちが出来ることは、いろいろなことがあると思いますけれども、一番大切なのは、あらゆる意味の『 社会システム作り 』だと思います。テクノロジーは色々なところが頑張るので出てくると思いますが、今の日本を見るときに、先行きが不安ということがあります。それは何で不安かと言えば、ちゃんとした制度やシステムが出来ていないからで、そういうところが非常に大事なことかと思っています。それを実現するための技術的なテクノロジーは必ずできると工学部の先生も仰っていました。あとは腹八分目の生き方が良いのかもしれない。あとは今の日本の議論にありませんが、戦前の反省をした方が良いと思っています。視野が狭くなり戦争に踏み込んでいったマインドを考えてみる。そして、そうならないようにすることが非常に大切だと思います。

 島野:私は、それぞれの人、それぞれの会社、それぞれの業界、それぞれが身の丈に応じた、自分たちに何が貢献できるのかということを真摯に考えて、企業も、業界団体も、個人も『 皆が少しずつでも身の丈に応じた貢献を行っていくこと 』それが非常に大きなものになってくると思いますし、そのような集積が私は大事だと思います。逆に私一人くらいならイイやという考え方をしていますと、それが何十万人、何百万人となって、厳しい現実となると思います。『 身の丈に応じた貢献をそれぞれがそれぞれの立場で取り組む、その大切な考え方を、影響力のおありになる、住先生や松下先生からの発信をお願いしながら、定着させて行くことが、未来に、未来の人たちに、この地球を託していくための、自分たちの責務 』だと思っています。

 # 対談全文は添付資料をご参照ください。

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